「やれんのか!」三崎vs秋山がノーコンテストに

反則ではないかと議論が巻き起こっていた大晦日の三崎vs秋山がノーコンテストになりましたね。
それにかんして秋山選手と谷川DEG代表の会見が行われました。


ノーコンテスト裁定に秋山と谷川代表が会見 スポーツナビより
秋山、無効試合を承諾|三崎陣営の菊田「非常に残念」 バウトレビューより(やれんのか!実行委員会のプレスリリースも掲載)
いろいろと 菊田早苗日記2008年1月24日より


本当にこの件に関しては様々な議論がありますが、おおまかに流れを整理してみましょう。
三崎選手の放った蹴りが立ち上がり際の秋山選手にヒットしたが、あれはルールで禁止されている4点ポジション(グラウンド)状態での頭部への蹴りではないかという議論が起こりました。
だいたい以下のような意見です。

  • 蹴りをうけたとき、秋山選手はグラウンド状態だった
    • ヒット時は微妙でも三崎選手が蹴りのモーションに入った時点では完全なグランド状態だった
    • 両足の裏以外が接地していれば「グラウンド状態」なので、ヒット時でも反則攻撃に該当する
  • 試合後、三崎選手の「日本人は強いんです」というマイクパフォーマンスは在日韓国人である秋山選手への差別発言ではないか


一方では以下のような反論も渦巻きました。

  • 秋山は立ち上がりかけていたので4点ポジションではない
    • ヒットの瞬間は秋山選手の片手が離れていたので「4点」ポジションではない
    • 蹴りは正確には秋山選手の胸あたりにヒットしており顔面には当たっていない
  • 流れの中での打撃なので反則には当たらない
  • その直前のフックで、秋山選手はすでにKO状態だった
  • PRIDEルールならOKだったわけで、三崎選手がこの微妙な体勢で攻撃をしてしまっても酌量の余地はある
  • 「日本人は強いんです」は過去にも言い続けてきた三崎のお約束コメントなので差別意識があるはずがない


客観的に考えてみると、4点ポジション(グラウンド状態)の厳密な定義がルール上に定められていなければ、反則か否かの論議に正確な答えを出すことはできません。
さらに今回は立ち上がりかけていた選手への攻撃なので、ルールの適用が「ヒットした時点で反則」なのか「攻撃モーションに入った時点で反則」なのかでも話が変わってきてしまいます。
「一般的に言われるグラウンド状態とは……」といった議論をしても、それが「やれんのか!」ルールでどう解釈されているかが明確でない限り、意味がないわけです。


そういったルール上の不備、グレーゾーンがあったという点を踏まえて、「やれんのか!」実行委員会が(三崎選手の反則負けではなく)ノーコンテストの裁定を下したというのは、良くも悪くも無難な決着だとは思います。
良い点は、主催者側が自ら「微妙」なケースであったことを認め、選手へのペナルティやレフェリーへの処分を課さずに裁定を下したこと。
おそらく今後は他の格闘技団体でも「グラウンド状態」などのルールが明文化され、グレーゾーンが消えていくきっかけになるでしょう。
悪い点は、本来は試合をもっとも間近で見ていて、その「微妙」なグレーゾーンの場合にすべての判断を委ねるべきレフェリーの采配を、このあまりに無難な裁定で覆してしまったこと。
これはこれで、格闘技界に“ゴネ得”な風潮が起こってくる危惧を感じます。


僕個人の考えでは、実行委員会は微妙なケースであったことを認めて今後の課題としつつも、レフェリーの判断を尊重して裁定は覆すべきではなかったと思います。
この試合がアマチュア大会なら厳密なビデオ検証のもと裁定を覆すべきでしょうが、これはあくまでもプロの世界です。
それが野球であれサッカーであれボクシングであれ、プロの場合はお客さんからお金を取る興行として、エンターテインメントとして不純な要素が入るのは当然のことだと思います。
ホーム側がアウェイ側より有利なのはどんなジャンルでも共通ですし、完全に平等な試合というのはあくまで理想論にすぎず、明らかなミスジャッジすらも試合中の偶発的な要素のひとつとして流されるのが普通です。
ある種の不平等さ、グレーゾーン、ミスジャッジも含む偶然のアクシデント……そういったものがあるからプロ競技は見ていておもしろいのではないでしょうか。
今回の試合で言えば、旧PRIDEのリング上で秋山選手は「外敵HERO'Sからの刺客」であり、明らかにアウェイの立場でした。
三崎選手に対する圧倒的な声援やKO時の観客の盛り上がりなどでレフェリングにブレが生じたとしても、それはむしろ当然のことです。
“厳密なルール”や“完璧なレフェリング”を求めるなら、高度なアマチュア競技を観るべきであり、それをプロ競技に求めるのは無理があると思います。
ドーピングのような不正なら話は別ですが、試合中の「微妙」なケースこそレフェリーの判断を最優先すべきではないでしょうか。
例えばもっともグローバル・スタンダードなスポーツであるサッカーがそうであるように。


ともあれ、今後はもっとルール上におけるポジションや攻防の流れにおける行為の判断などの議論がなされ、試合内容の向上に還元されていくことを期待します。