2009.12.31「Dynamite! 〜勇気のチカラ2009〜」感想その2

気になった試合の感想や意見、続きです。
いよいよ例の青木vs廣田戦について書いてみましょう。
最初に触れておきますが、僕はけっこう青木を(限定的に)擁護する立場なので、そういうのが読みたくない人は飛ばして下さい。
あと僕の立ち位置を説明しておくと、僕はK-1やDREAMはプロレスの延長線上だと考えており、武道の延長線上とは考えていません。
それは八百長という意味ではなくて、「お客さんからお金を集める見世物興行」という点です。
そうやってお金を集めてファイトマネーをもらうK-1やDREAMの選手と、道場に弟子を集めて月謝をもらう武道家は、おなじ格闘技をやっていてもまったく違う職業だと考えています。
よって、そもそも青木の行為はヒールとしてセンセーショナルだし、見世物としてならアリです。
ただ、地上波TVで放送するには行き過ぎていたと思いますが……。

青木真也○vs×廣田瑞人

まず試合内容から。
開始直後から青木が片足タックルをしかけてテイクダイン、そのままグラウンドの攻防で先手をとっていきます。
これはもう青木の勝ちパターンなのですが、そこから自分の右手で相手の右手を後ろ手にクラッチする形に入ってからが圧巻でした。
右腕一本で廣田を完全にコントロールし、パウンド→バックマウントでチキンウイングアームロック→アームロックでフィニッシュ。
2分17秒の試合時間で、文字通り廣田になにもさせずに勝利をおさめました。
あの状態から相手の背中に腕を回してチキンウイングの形にクラッチしてしまう技は今まで見た記憶がなく、非常に驚きました。
それにしても、最後にアームロックが極まり廣田は骨折してしまったわけですが、青木についてどうこう言う以前にレフェリーもセコンドも止めるのが遅かったんじゃないでしょうか?
もちろん青木が折りにいったし、廣田がタップしなかったというのが原因なのですが、折れる前に充分止められたと思います。
というのも、青木が右腕一本で相手をコントロールし左腕が自由な状態で、廣田がバックマウントになり腕をチキンウイングの状態に取られていた時点でそこからの脱出は難しく、ほとんど“見込み一本”と見てよかったからです。
もちろん総合格闘技の試合では“見込み一本”で試合を止めたりタオルを投げたりはできないでしょうが、少なくとも「次に展開が動いたら極まるに違いない」という予測と、その瞬間に止める準備はできたと思います。
それから、中には「最後までタップしないなんて廣田は根性がある」なんて褒める人がいますが、僕はそれはとんでもないことだと思います。
素直に負けを認めるほうがよほど強い心です。
タップをしないことでしか根性や意地を表現できないなんて、褒められたことではありません。
「折られてもタップしないほうがかっこいい」なんて風潮がまかり通ったら、選手はたまったもんじゃないですね。


ただ、問題になっているのは試合後、青木が廣田に中指を突き立てた行為についてです。
ノーサイドとなるべきゴングの後に侮辱行為をした青木には非難が多く、またDREAM笹原代表も厳重注意を行ったとのことです。
もちろん推奨されるような行いではありません。
ただ、僕個人としては青木の行為にそれほど怒りは感じませんでした。
「人として許されない」というのはその通りなのですが、人間なら試合直後の興奮状態であれくらいのことをしてもおかしくないでしょう。
「個人的に恨みもなにもない相手に対してひどすぎる」というのもその通りですが、もちろんあれは川尻との試合を反故にしてモチベーションのあがらない相手との試合を強制したSRCの周辺に渦巻く“大人の事情”に対する怒り・憤りを、廣田瑞人を仮想敵にしてぶちまけたということでしょう。
つまり、僕にはあの行為が“常軌を逸した行動”とは思えない。むしろ想定の範囲内のことだと思えるのです。


また、青木をあの侮辱行為へと駆り立てた原因は、“大人の事情”以外にもあると思います。
あえて言いましょう。
それは「あの試合における廣田瑞人が弱すぎた」*1ということです。
「結果として弱すぎる相手との試合だった」という事実が、青木の“大人の事情”に対する怒りや憤りを倍加させたことは想像に難くありません。
そして、最後に少々プロレス的な発想ですが、僕が青木を憎めないポイントがもうひとつあります。
それは仮にあの侮辱行為がなかったらどうなっていたかということです。
「がっかりした」「もう応援しない」といった言葉は青木ではなく廣田に向けられていたのではないでしょうか?
ワンサイドで一本負けを喫した廣田に戦極ファンは失望し、匿名掲示板には「切腹しろ!」「北岡にベルト返せ!」といったコメントが溢れかえったことでしょう。
それが青木の侮辱行為のおかげで矛先が変わりました。
いわば侮辱行為で非難を浴びている現在の青木は、廣田に対する失望や怒りまでも引き受けているのです。
青木真也は試合中に右腕一本で廣田を下し、試合後に中指一本で廣田を救った」
そんな気もするのです。


というわけで、青木vs廣田戦の感想が長くなっちゃったので、魔裟斗引退試合の感想はまた次回に!

*1:無論、廣田は強いのですが、少なくともあの試合においては「王者同士の試合」と両者が誇れるような役割を果たせなかったことは明白です。